高校生の頃に本気で競歩に取り組んでいた私だからこそ解る、
「競歩」と「走」の違いを解説していきたいと思います。
また、「競歩」と「走」の違いから解る、
「速く走るために必要な事」も併せて解説していきたいと思います。
筆者の競歩実績(県大会優勝3回、地区大会最高5位、5000m競歩22分台)
「競歩」と「走」の違いとは
「競歩」と「走」の違いはドコにあるのか。
まずは大前提として、
「歩く」は「走る」よりも速く前に進む事が出来ない。
という事から確認していきたいと思います。
「競歩」と「走」の記録の比較
5000m走 | 5000m競歩 | タイム差 | 1㎞あたりのペース差 | |
世界記録 | 12分35秒36 | 18分5秒49 | 5分30秒13 | 66秒 |
5000m走 | 5000m競歩 | タイム差 | 1㎞あたりのペース差 | |
日本記録 | 13分8秒40 | 18分20秒14 | 5分11秒74 | 62秒34 |
5000m走 | 5000m競歩 | タイム差 | 1㎞あたりのペース差 | |
高校記録 | 13分22秒99 | 19分29秒84 | 6分6秒85 | 73秒37 |
当然の結果ではありますが、
どこのエリアのどのカテゴリーの記録を比較しても
「競歩」が「走」に勝っているところはありません。
大体1kmあたり1分ちょっとは「走」の方が速くなっています。
「競歩」の動きを縛る2つのルール
では次に、なぜ「競歩」は「走」に勝てないかという理由について。
競歩には体の動きを縛る2つのルールがあるのですが、
これが競歩の「前に進む力」に制限を掛けています。
ロス・オブ・コンタクト(空中に浮き上がる事を禁止)
まず1つ目のルールが「ロス・オブ・コンタクト」
競歩では体を空中に浮き上がらせる事が禁止されており、
必ず片足は地面に着いていなければなりません。
「走」では空中移動と、接地中の移動、2つの前進方法があるのに対し、
「競歩」では接地中の移動しか許されていないんですね。
また、空中移動が出来ないという事は、足を前に出して体を進めていくしかないため、
必然的に体(重心)の真下よりも前方で着地する足の運びになります。
ベント・ニー(膝が曲がった状態での接地禁止)
2つ目のルールが「ベント・ニー」
競歩では足が地面に着いてから体の真下に来るまでの間、膝を曲げる事が禁じられています。
画像引用:陸上競技審判ハンドブック(競歩競技)
このルールが設けられている目的は
競歩の動作の中から
「躍動的な動き」を排除するという点にあると思います。
例えば、ジャンプする時の動作をイメージしてみると、
上画像のように、まずは腰を落とし膝を曲げるところから始まりますよね。
この膝を曲げる動作によって下半身の腱や筋肉が伸ばされ、
そこからバネの効いた「躍動的な動き」につながっていくのですが、
競歩では膝を曲げた着地を禁止する事により、
「躍動的な動き」つまり、体が浮き上がる事につながる動きが封じられています。
2つのルールから見る「競歩」に求められる動き
- ロス・オブ・コンタクト<直接的に体が浮き上がる事を禁止>
- ベント・ニー<間接的に体が浮き上がる事につながる動きを禁止>
この2つのルールに縛られる状況下で競歩に求められる動きは
「足の回転数(ピッチ)を速くすること」
空中に浮きあがれない分、やはり歩幅(ストライド)を広げるのは難しいですし、
無理に歩幅を広げようとすれば、過疲労やファールにつながる可能性があります。
自分にとって無理のない歩幅で、出来るだけピッチを速くすること。
これが競歩では求められています。
「競歩」と「走」の動きの違い
ここからは、「競歩」と「走」の動きの違いを見ていきたいと思います。
「着地位置」と「着地方法」
「競歩」の着地位置は上欄で書いた通り、
重心(体)の真下よりも前方での着地になります。
また、体の真下よりも前方で膝を伸ばした状態での着地になると
自然と着地は踵(かかと)からになってきます。
次に「走」について。
基本的に「走」には「競歩」のような動きを縛るルールはないので、
走り方は「人それぞれ」になってきます。(ココ重要!)
着地位置は人によって、
重心(体)の真下で着地する人もいれば、体よりも前方で着地する人もいますし、
着地方法も
「かかと着地」「ミッドフット(足裏全体)」「フォアフット(つま先)」と人によって違ってきます。
どこまで脚を後ろに伸ばすか
着地をしたら次に、どの位置で地面から足が離れるかについて。
まずは「競歩」から。
動画参照:インハイTV「2019年IH 陸上 男子 5000m競歩 決勝」
上の動画を見ると解りやすいですが、
基本的に競歩選手はあまり後ろまで脚を伸ばしてはいません。
これも上欄で解説した通りですが、
無理に歩幅を広げようとすると、過疲労やファールにつながる可能性があるので、
自分にとって無理のない歩幅で、出来るだけピッチを速めるウォークを行います。
一方で「走」の場合ですが、これもまた人それぞれで、
足の回転を速める「ピッチ走法」では、あまり脚を後ろまで伸ばさず、
逆に、歩幅を広げて走る「ストライド走法」では脚を後ろまで伸ばす動きが特徴として挙げられます。
「腕振り」の違い
「腕振り」に関しては基本的に「競歩」も「走」も考え方は同じで、
足の動きに対してバランスをとる腕振りをするのが理想です。
「競歩」の場合だと、上画像を参考にすると、
右足を大きく前に振り出しているのに対し、
右腕は体のバランスをとるために後ろ深くまで引かれます。
競歩の腕振りは「後ろまでしっかり引く」が1つの特徴になっています。
また、競歩の場合は2つのルールによって着地位置、離陸位置がある程度固定され
選手皆がほぼ同じような足の動かし方をしているので、
それに対してバランスをとる腕振りもまた皆同じようなモノになってきます。
「競歩」は足の動きや腕振りに個人差があまりない競技だと言えると思います。
逆に「走」は、
人によって着地位置、離陸位置が違い、足の動きは人それぞれになってくるので
腕振りも人によってだいぶ変わってきます。
「競歩」と「走」の違い(まとめ)
<ここまでの要点>
①「競歩」と「走」は両方とも、いかに体を速く前に進めるかを競う競技である。
②「競歩」は「走」に勝てない。
③「走」は空中移動と、接地中の移動の2つの方法で体を前に進める。
④「競歩」は接地中の移動でしか体を前に進められない。
⑤「走」のランニングフォームは人それぞれ。
⑥「競歩」のフォームは足の動きや腕振りにあまり個人差がない。
「競歩」と「走」の違いから解る、速く走るために必要な事
動画参照:秀興高橋・競歩 スムーズに速く